2.7.13

一つの出会いから

出会いは数ヶ月前、自由が丘の老舗お好み焼き屋「喜多由」にて。
芸能人のサインが所狭しと並び、週末には待ちが出る程の人気店であるが
実はピークの時間を外せば空いているのだ。

その日は仕事帰りということもあり、遅めの入店になった。
やはりこの時間は空いている。2時間ぐらいダラダラお酒を飲み、さて帰ろうとしたところ
突然「その帽子素敵ね」とピタピタのアンダーアーマーを着た熟女に声をかけられた。
一瞬、僕のことかと思ったが目線は違う方を向いている。どうやら隣にいる伊織のことのようだ。
彼はハットかベレー帽しか被らない、オシャレなのか何なのか分からない奴なのである。

「ちょっとこのおじいさんが被りたいって言ってるから、被らせてあげて。」
どうやら熟女の向かいに座っているダンディな方のことらしい。
「いいですよ、いいですよ」
ちょっとしたやり取りがあった後、伊織はその時被っていたハットをおじいさんに手渡した。
おじいさんは嬉しそうに帽子を被ると、ジャケットのボタンを閉めて格好を付ける。

…フィット感が凄い!まるでおじいさんの帽子であるかのようだ。

これは撮るしか無い。
カメラをセットし「撮りますね」と言うと、最初恥ずかしがっていたおじさんは
ポーズを取り始めた。なんともお茶目さんである。
数枚撮り、お互いに礼を言い店を後にした。

数日後、PCに取り込んだ写真を見て仰天。良い写真すぎて。
その写真をプリントに出し額縁に入れ、おじさんにプレゼントすることに決めた。

−−後日
夜10時頃の入店。やはり空いている。
もんじゃを食べつつ、店員さんに尋ねる。「すみません。この写真のおじいさんって来ますかね?」
「ほぼ毎日いらしてるので、いらっしゃると思いますよ」
その後2時間程度飲んでいたのだが、おじいさんは最後まで来なかった。

数週間後、また喜多由へ向かう。
今度は入店する前に聞いてみた「このおじいさんいますか?」
店員に聞いていると、前におじいさんと一緒に飲んでいたピタピタ熟女が厨房から出てきた。
「ちょっと電話するから待っててね」
ピタピタ熟女は喜多由の女将だったのである。
「30分後ぐらいに来るってよ」

それまで額縁の表面に張りっぱなしにしていた保護シールを剥がし
なぜか少し緊張しながらその時を待っていた。

30分後、ガラガラと店の扉が開いた。おじいさん遂にご来店。
「こんばんは。あの、以前写真撮らせていただいたの覚えてますか?その写真を現像したので、どうぞ。」
すると、おじいさんは写真を見て
「おぉーよく撮れてるね。ありがとうございます。コンテストに出したら賞取れるんじゃないですか?」
と冗談を言いながらも、喜んでもらえたようだ。

それから女将とおじいさんと一緒に飲み、話をしていたらすぐに時間は経っていった。

夜も更け、おじいさんが帰る時間になると
「それじゃあお先に失礼します。今日はこれで飲んでいって下さい」
ポンと机の上に飲み代を置いた。
「いや、いいです。そういうつもりで差し上げた訳ではないので」と断ったが
「いいから、いいから」と頑なに受け取ってもらえなかった。

そして最後に3人で撮ったのが、1番上の写真なのである。

実は伊織との出会いも1年前ぐらいで、賢というキーマンもいるのですが喜多由には仕事で来れず。
その前に賢を紹介してくれた、拝原という金沢で頑張ってる奴もいるんですが。

縁と出会いとタイミング。それだけで人生が変わっちゃう。
繋がりの大切さが身に染みますね。